手刻みとは?手刻みのメリットデメリット
手刻みとは?
私が見てきた木造住宅による木工事の普遍的作業ルーツは、山から取れた原木を構造図により求められたサイズに製材をかけて加工し、その製材した構造材となる土台、柱、梁、桁、小屋組材などに一つ一つに墨付け(墨でしるしを付ける作業)を行い、
しるしを付けた木材をノミやノコギリ、カンナなどといった大工道具でさらに、組合せが可能になる柱や梁などの必要長さとなるサイズまでの加工を行い、またさらにそれら部材同士の組み合せに必要となる継手の仕口加工を行うなど、さまざまな技術を費やし、木材からそれぞれの用途に応じた構造部材へと仕上げて、木組みを主軸とする木造住宅の建て方(上棟)を行ってきたものでした。
このように、建て方までのある程度製材された構造材を、一つ一つ手加工で仕上げる一連の作業のことを、手刻みと呼びます。
手刻みは木の性質や、木の特徴を熟知している大工さんだからこそできる職人技で、それぞれの部位に応じて、どの木をどこにどのように使うか、適材適所を見極め、構造体となる骨組をしっかりと組み上げることで、力強くしなやかで、耐震性に優れた建物を提供することができます。
又そのことを理解した上で、建物一棟墨付けが出来てこそ、初めて一人前の大工とて認められることが一般的となります。
手刻みのメリットとデメリット
【メリットとして】
① やはり手刻み仕事ができる職人には技術力があり、木の特性や個性を引出すことができるため、化粧柱や化粧梁、化粧丸太梁現しなどの、構造材をデザインとして見せたり、差別化を図るような独自の空間を創り出すことができるため、こだわりを持った家造りをご希望の方にはお勧めです。
② 初めて墨付けをして手刻みを行った物件に対て、建て方前の心境について大工さんたちは大抵こう言います。『建て方(上棟)前の夜は墨付けが間違っていないか、それにより間違った刻みをしていないか、不安でなかなか寝付けなかったと。』
どう言うことかどういうと、部材加工による大きな切り間違いなど、致命的な間違いがあった場合、建て方(上棟)が出来なくなる可能性が出てきます。
少し極端な例でしたが、このような心境になることにより、その物件に対して今まで大切に手掛けて刻み上げた作品(構造材)を、無事に上棟まで組み上げることが出来るかどうか、というプレッシャーからなる一番大切な責任感という感情が生まれます。
今の支流であるプレカット住宅には、なかなか生まれて来ない現場に対しての大切な気持ちの持ち方です。
お施主さん側にとってはとても嬉しいメリットになります。
③ 難易度や自由度のある物件に対しても、強度のある粘り強い家造りができる。
④ 建築業者側からの観点として、手刻みにはさまざまな技術を継承できる木工事の過程がつまっていて、木に対する大工道具の使い方や木の扱い方など、原点からその深みを学ぶことにより、現在途絶えかけている、本筋の大工を育成することができる大切な工程になります。
【デメリットとして】
① 現在の木造住宅による構造材の加工は、プレカット工法が主流になっていて、手刻みと比較した場合、やはり大工さんが木材を手加工で行うことから、プレカット工法よりも時間と手間がかかります。
すなわち工期が必要となり、それに伴う費用もそれなりにかかってきます。
② 職人の手作業による構造部材の加工になるため、やはり人間のする事ミスは付きもので、特に建て方当日の作業で稀に発覚することがあり、刻み忘れや刻み間違い、寸法違いによる切り間違いなど、大型の物件や難易度が高くなればなるほど出やすい傾向にあります。
そういった現場での間違いは想定内として、迅速に部材の取り替え又は、手直し加工を行うなどをして、適正に修正作業を行い、中断していた建て方を再開していきます。
③ 建築業者側からの観点として、手刻みができる技術を継承した本来の大工と呼ばれる職人の人数が減少しているため、手刻み希望の物件や、それらに伴う難易度の高い物件、化粧仕事が多くメインになるような物件に対しての対応が難しくなってきている。
建築業者側からの目線としては、特に木造住宅でも技術的な部分でこだわりを持っていてる顧客の要求に対しては、手刻みならではの無垢の木の性質や個性などを活かした、差別化を図れる力強い独自の建物を提供できる技術力と、難易度の高い物件や、化粧仕事が多い物件など、バリエーションに関しては幅広く対応するこができます。
又そのような物件に携わることにより、本来持つべき大工としての技術が継承できることもメリットに繋がります。
但し、現在の消費者側からの目線に関しては、工期短縮でローコストなどの、生活する上での現実的な要求が多いため、手刻みによる大工仕事は年々少なくなってきています。